いろはにほへと
「は?あれ誰?」
私が凝視しているから、澤田も振り返って、カメラ片手に全力疾走しているらしい男性が、段々距離を縮めてくるのを見た。
ーもしかしたらあの人…
まずいかもしれない。
確かさっきバス停が見えた。タクシーもちらほら居る。いざとなったら、どちらか先に着た方に乗ろう。
咄嗟に澤田を引っ張って、方向転換すると。
バサッ
「きゃっ」
「こっちへ。」
「何ー?!」
少し前に、どこかで聞いた覚えのある声と共に、上着みたいなものを頭から被せられて、澤田が悲鳴をあげる。真っ暗ではないが、足元しか見えない。
「静かにして」
そのまま澤田と私の身体は誰かに抱えられるかのようにして動かされ、車の中に突っ込まれた。
バン、と閉まった音がした所で、覆いが外され直ぐに車が動き出すー
「何なのよ!あなた誰?」
噛み付く澤田を、運転手が振り返って。
「荒っぽくなってしまってごめんね。緊急事態だったから。」
「あ……」
謝罪した所で、漸く思い出す。
「桂馬くんの…お兄さん!」