いろはにほへと
桂馬の兄には、以前図書館迄送って行ってもらったきりだけれど。
その時の車と同じ車に、私は今、澤田と乗っている。
「覚えててくれたんだ。」
バックミラー越しに、ふ、と笑った顔は、桂馬の意地悪な笑みとは似ても似つかない。そう、桂馬とお兄さんは似ていないのだ。
「へ?中条さん知り合いなの?ってか、阿立桂馬の兄?!何それ、怪しい!」
隣の友人は、見えないけれど、きっとパニックになっているに違いなかった。警戒心全開にして身体を固くしている。
「本当なんです、澤田さん。だから大丈夫ですよ。」
「ごめんね。状況が状況だったから、友達も巻き込むことになっちゃって…」
なんとか落ち着かせようとする私に、桂馬兄が、申し訳なさそうに謝った。
「何があったの?」
澤田の質問を受けて、私も桂馬兄を見た。
「何があったんですか?これから私達どこに行くんですか?」