いろはにほへと
「本人って言っても……」


どちらもここにはいないではないですか。

そう、言い返したいけれど、桂馬兄は、私の言葉を待たずに、降りてと促した。


「ここ、どこ?」


澤田が、暗い駐車場をきょろきょろと見回しながら、不安そうに呟いても、桂馬兄は大丈夫だよと言うだけで、ホールに着くと降りてきたエレベーターに乗り込む。


私もここは初めて来た場所だ。どこなのか知らない。そもそも外観はどうだったか。

真っ白。
記憶にない。


ー見てる余裕なんか、ありませんでした……


私が何をしたことで、周囲の人に迷惑をかける事態となってしまったのだろう。


週刊誌にスッパ抜かれたという言葉の意味すらよく理解できないまま、重くのしかかるような身体を引きずり、エレベーターの箱の中に入った。
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