いろはにほへと
「ここは、DYLKの事務所。」
上昇するエレベーターの中で、桂馬兄が思い出したように言った。
「DYLKって…」
「ルーチェの…」
聞き覚えのある名前を、私が呟いたのと同時に、澤田も口を開いた。
変な緊張感が押し寄せてきて、沈黙がそこに上乗せされる。
トモハルが、いるかもしれない、と。
ー落ち着いて、私。
自分自身に言い聞かせるが、膝が微かに震えている。
5の表示で停止したエレベーターから降りると、直ぐに磨りガラスの扉と対面。
「いくよ。」
桂馬兄が躊躇うことなくそのシルバーの取っ手を引っ張った途端だった。
「いい加減にしろよ!」
聞こえてきた声は、誰のものかわからない位、怒りが強い。
私と澤田は肩をビクリと震わせ、当たった片方の肩と肩。
顔を見合わせて苦笑。
「大丈夫、入ってきて。」
桂馬兄が、そんな私達にGOサイン。
意を決して入室した途端。