いろはにほへと
「あんた達の都合で振り回しておいてそれはないだろ?!」



途端、途端、で響き渡る怒号は、いつもの冷静な姿からは想像出来ない。

広い部屋は、蛍光灯の光で、青白く染まっていて、大きなテレビ、大きな革張りのコーナーソファ、それから隅にデスクが置いてあった。

中央にある硝子のローテーブルの上には、雑誌がひとつと、タブレットがひとつ。

ソファに座っているのは、知らない男の人が一人。


それから。


ー早川さん、と…



手が、指先が、心臓が、震える。



私達に背を向けて叫んだ桂馬の肩越しに、私と確実に目が合い。




そして、瞬時に逸らした、、、トモハルが居た。






鋭い痛みが胸に走り、思わず手を当てる。




どくどくどくと、全身の血液が波打って、非常事態を告げる。

心の準備なんて皆無に等しい。

あの夜の後の再会が、こんな形で実現するなんて。


心臓が、壊れそうだ。


「お取込みの所悪いんだけど、到着しましたよ、桂馬クン?」



しんと静まり返った空間。




「…あぁ…」



打ち破ろうとするかのように、不釣り合いな程チャラけた態度で、開けたドアの内側をコンコン、とノックする桂馬兄に、漸く気付いた桂馬が振り返った。



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