いろはにほへと
まだ、撮影の時に、カットされた髪は、定位置まで伸びきっていない。


最近若干慣れてきたけれど、視界はクリアだ。



「こっちにきて、座ってください」


そんな風に言われても。


後に残された私は、一人で立っているのがやっとな位で、というよりも、トモハルのいるソファになんて、近づくなんていう方が無理で。


その場に凍りついたように立ち竦んだまま、動けなかった。

それをどうとったのかはわからないけど、その男の人は、私の方へと自分から歩いてくることにしたようだった。


「本来ならば我々が、貴女の家まで行って説明と謝罪をするべき所なのにー、何せこちらも寝耳に水で、大変バタついておりまして、、申し訳ありません。」



目の前まで来ると、入り口付近に直立不動の姿勢を保っている私に頭を下げる。


黒髪と白髪のコントラストがやけにはっきりとしていて、キレイに固められていた。


「いずれ、早い内にご両親のもとへ伺います。しかし事実確認と今後の対応については、今直ぐにでもした方が良いでしょう。当事者を含めて。」



誰なのか分からないその人の、当事者という言葉を聞いて、心臓がまたどきりと音を立てる。

また目を逸らされてしまうのが怖くて、もう見れないトモハルの存在が、この部屋の中いっぱいに感じられて、呼吸が浅くなるような錯覚に陥った。


「もうご存知かもしれませんが、こちらへきて、まず何が起きたのかを見てください。」



そう言って再びこちらへ、と誘われ、床に目を落としたまま、手を引かれるようにして、トモハルと早川さんが座る所から一番遠い端にふらりと座り込むことに成功した。
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