いろはにほへと
しかしそんなことには構わずに社長はどんどん続ける。
「先程も言ったように、このPVはかなりの話題を呼んでいます。そして、週刊誌の方も別の意味で賑わっている。しかしまだ、この二つの話題を呼んでいる女性が、誰なのかは結び付いていないんです。」
「…はぁ。」
だから、なんだというのだろう。
社長の意図が分からず、相変わらず抜けた相槌をする私。
「だから、正体をバラしてしまいましょう。」
そんな私を社長は満面の笑みで迎えた。
「ーえ?」
「実は君は期待の新人で、スカウトされ、変身を遂げた。新曲が発売されるまでは、君の存在は隠しておく計画だった。慣れない現場で、ルーチェのメンバーも応援に駆け付けたりするなどして、支えた、と。そういう設定にすればこんなネタも消えて、むしろ新星と人気絶頂のルーチェが、良い意味で注目の的になります。ね、上手くいきそうでしょう!」
よく分からないが、この社長がこんなに言うのなら、それで上手くいくのかもしれない。
でも。
「わた、私は、この仕事、顔は出さないっていうことと、一度きりという約束で、お受けしたのですが…」
父との約束が、何よりも先にあった。