いろはにほへと
「聞いています、聞いています。それに関しては…ただ、この業界はそんなに甘いものではありません。予定が変わることだって沢山あるし、今回のことも監督の指示で出来上がった訳で…ここまでの反響は想定して無かったとしか言えません。そして我々としてはそれを利用する他手はない。」



「…でも、、、」


父に私はどう説明すれば?


「そしたら、私は…」



その先何が言いたいのか伝わったのか、社長は頷いてみせた。



「芸能界に、入っていただく必要があります。何しろ、貴女を使いたいという話があちこちで上がっていますから。」



トモハルと早川さんが黙っている理由が、やっと理解できた気がした。


くら、と眩暈がする。

こんなこと、予想していなかった。


「ちょっと……考えさせて、、頂けませんか。。。驚いたのと、急に色々あったので、、疲れてしまって、、よく…今直ぐには答えられないんです…」



社長の反応を見る前に、私はよろり、ソファから立ち上がる。

もう、帰りたかった。

一刻も早くここから立ち去りたかった。


「…そうですね。確かに急だ。でも、家には戻らない方が良いと想いますよ。今日は出来るならここか、ホテルに泊まった方が良い。」


「…そ、ですか…」


そんなに大変なことになっているのだろうか。


大き過ぎて、なんだか全体像が見えてこない。


「でも、、あの、、友人を、待たせているので…訊いてきても、良いですか。」



そうだった、と社長は漸く思い出したらしく、気持ち良く許可してくれた。


しかし、すれ違いざまに。



「無理強いは出来ませんがーこの話、受けて頂けないと、那遥は守れません。」


忠告とも、脅しとも取れる言葉を落としていった。
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