いろはにほへと
「あいつ、まじで許せねぇ。」


「桂馬っ」



ドアノブに手を掛けた音がしたけど、開かれる事はなかった。



「…ひな……」


目に滲むいっぱいの涙の所為で、桂馬の顔はよく見えないけど、彼のもう片方の手を、彼の兄が取っているのはなんとなく見えた。そして、ひとつは、私が掴んでいる。


「もう、いいです…」


渾身の力を振り絞って、桂馬に言うけど、掠れるような声しか出てこない。


「これが……答えです………これ以上誰かを…」


現に、社長が提案する中、トモハルは何一つ言ってくれなかった。

最初から分かっていた事じゃないか。

傷つく事自体がおかしい。



「桂馬くんまで……傷付いて欲しくありません…」



芸能界の仕組みは、よく知らないけれど、この事に首を突っ込めばーもう既に大分関わってしまっているけれどー桂馬だって無傷ではいられないだろう。
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