いろはにほへと
「俺も、ひなのちゃんに賛成だな。」
桂馬兄も、神妙な面持ちで頷く。
「いくらPVで仕事したからって、他事務所の件に関して意見する事は許されない。特に今回のは桂馬は関係ないでしょ。俳優として売れてても、大手のDYLKを敵に回すわけにはいかない。」
付け足す様に、もう十分だろ、と言った。
「ー分かった。」
腕に入っていた力を抜き、桂馬は感情を溜め息で逃す。
「これ以上話した所で、どうにもならないだろうからな。けどー」
そう言うと、私の事を見る。
「俺はひなを守るよ。それだけは覚えていて。」
ぽんぽん、と頭を軽く撫で、元気づける様に笑ってみせる桂馬に、私の涙はまた溢れてくる。
「あと、DYLKに暫くはホテル代出してもらってハイヤーで学校いきなよ。大事な時なんだし流石に休めないだろ。」
「あの…でも…親に…」
「大丈夫。もうDYLKから連絡入ってるだろうから。」
何も連絡していないのを不安に感じた私の気持ちを、桂馬は直ぐに理解して、再び私の頭を撫でた。
「家でも良いけど…もしかして張られてたりする?」
「可能性としてはあるかもね。」
澤田が言い、桂馬兄が頷く。
ー逃亡者、今度は私になってしまいました…
二人のやりとりを耳に流しながら、
以前はトモハルが、逃亡者だったのに、とぼんやり思った。