いろはにほへと
「ただ、歌詞が―」
そう言って、首を傾げれば。
「歌詞が?」
トモハルが先を促す。
相変わらず、草と会話するみたいにして。
こっちの方が、私にとっては気楽だけれど。
「わかんないんです。」
「わかんない?」
トモハルの手がピタリと止まる。
「はい。」
言いながら、私は赤いラジオに視線を注ぐ。
「なんで、この人は会えない人を、ずっと待ってるのでしょうか?どうしたって会えないんだから、仕方ないのに。」
小さい頃、こうして縁側で、姫子さんとこの赤いラジオをよく聴いた記憶を思い出す。
「ひなのは―」
「え。」
ラジオが影に覆われたのを見て、庭に視線を移すと、トモハルが立ち上がって、こっちを見ていた。
「恋をしたことがないの?」
「こい???」
益々首を傾げた私を見て、トモハルが言い直す。
「誰かを好きになったことがないの?」