いろはにほへと
今日は、外はどんな天気だ、とか。
暖かい日か、寒い日か。
風が吹いているのかいないのか。
今立つこの場所は交通量が激しいのか、人通りが多い所なのか。
それとも少なくて、静かな道なのか。
そういう情報は、今の私には一切入ってこない。
ただ一点のことだけに、意識が全て持って行かれて。
身体の感覚が麻痺してしまったみたいだ。
「…さん…ひなのさん!」
強く名前を呼ばれて初めて、私は視界の前に立つものを認識した。
「…あ、お父さん……」
ぼんやりとゆっくり顔を上げると、父の隣で母も、私のことを見つめている。
二人の髪が揺らされているのを見て、あぁ風が強いんだな、と。
ここは高い建物が多いから、ビル風が吹いているんだと気付く。