いろはにほへと
想いは褪せて消えるだろうか
ひなの達が、出て行ってからDYLKの事務所には、重苦しい空気が圧し掛かっていた。
「交渉決裂、だね。」
盛大な溜め息を吐いた豊橋社長は、ソファに倒れ込んで、呟く。
俺の隣に座るまこっちゃんは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「というか、あの両親は一体なんなんだ?特にあの父親は。遥の受け答えに問題があるような言い方をしていたが、反対にどんな答えを期待していたのか訊きたいね。」
社長はそう毒吐いてから、まこっちゃんをチラと見る。
「お前が、前回交渉した時とは偉い違いじゃないか。あの時は相当理解のある両親だったって聞いたがね。」
散々罵詈雑言を浴びせられてから、今回のひなのの両親との話し合い。
まこっちゃんは、憔悴しきっている。
それでも、かろうじて。
「出演は一度きり、という約束の下で、でしたので…」
と、答えた。
「一度きり、ねぇ…」
それに対し、社長はあはは、と笑いながら、まこっちゃんの言葉を繰り返しー
「だからお前は駄目だっていうんだよ!」
テーブルの上に広げてあったゴシップ記事を床に叩きつけた。