いろはにほへと
「ちゃんと、見て。」
いや、見れません。見れません。
こんな至近距離で目を合わせるなんて、拷問以外の何物でもない。
「空」
「いえ…へっ!?」
空!?
両手を掴まれたまま、言われた通り顔を上げた。
「あ。。。」
湿った匂いと。
霧雨の残る空。
顔を出している太陽。
そこに、大きく掛かる―
「…虹」
ぽつりと呟いた。
「きれい、でしょ。」
トモハルの言葉に、素直に頷いた。
「虹も、ひなのが手入れしている藤も、なくてもいいものって言えば、そうでしょ?」
「違います。」
今度は眉間に皺を寄せて首を振ると、トモハルが苦笑いする。
「人を好きになることも、そうだよ。知らないと、損するよ。」
「それとこれとは、別です。」
難しい顔で否定して、手を放して欲しいと引っ張った。