いろはにほへと
桂馬からもらった、あの高い、スマートフォンという代物は、騒動の間ずっと持っていたら、いつの間にか真っ暗になっていて、そのまま。
使い方が悪かったのか、落とした訳でもないのに、何故壊れたのか。
折角くれた桂馬には悪いけれど、そんなことを考えるのも面倒になっていた。
もう、全部が、どうでもよかった。
だって、全部が、無くなったんだから。
私は、シングルベッドに背中を預けて、ただただ、カーテンの隙間から陽が差し込んで、消えていくのを、ぼんやりと見つめ、じっと、痛みに耐えていた。
いつか、癒えて、本当に全部がなくなればいいのにと願いながら。
大人になんか、なりたくないと、初めて思った。
その感情の先に浮かぶのは-
「…あ、れ…」
枯渇した筈の涙の源泉が、再び活動を始めて、おろおろと狼狽える自分。
この夏、関わった、沢山の大人達は皆。
自分の仕事を一生懸命していた。
それに喜びと誇りを持っていた。
それは、輝いて見えた。
同時に。
ひどく窮屈にも見えた。
特に。
特に、トモハルは。