いろはにほへと



「中条は、そういうの、持ってるの?」


ぼんやり考え込む私に、葛城先生が立ち上がりながら訊ねる。


「私には、そんなもの、ないんです…」


私は苦笑いをしながら、答えた。


「だから、羨ましいなと、思います。」


【一番】の為に、闘える程、強い自分は、私の中に居ない。


「…そうか。まぁ、焦らずゆっくり探せばいい。とりあえず元気そうな顔が見れて良かった。ーまた、何かあったら来なさい。」


葛城先生は、にかっと笑って、私に背を向けた。


「ありがとうございました…」


その背中に私は一礼して。


「そうだ。中条。お前、今迄注意してこなかったけど…その前髪は長過ぎるぞ。」


カララ、ピシャン。

教室の戸が閉まった音と一緒に。

生活指導の先生から頂いたお言葉を、暫く噛み締めていた。



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