いろはにほへと

人に存在を知られないことはあっても、知られた上での、嫌がらせを受ける事は余りなかった私。


「中条、前に来てこの問題を解きなさい。」


数学の時間。

先生に当てられて、前に行く迄に。



「っ…」


足を掛けられて、すっ転ぶ、なんて典型的ないじめも、経験した事がなかった。

ビタン、と派手な音がして、なんとか出した掌が、ジンジンする。


「だっさ」

「前髪が邪魔で見えないんじゃないのー?」

「切ってあげようか?」


ここは、由緒ある女子校だ。

偏差値も高い。

だからと言って、こうしたことが起きないという根拠にはならない。


「大丈夫か?」


クスクスひそひそとした声の中、先生が心配そうに声を掛ける。


「ー大丈夫です。すみません。」


スカートが長くて助かったと思った。

掌と一緒に床に膝ががっつりぶつかって、青痣は確実だけど、スカートが間に挟まって、擦り傷は免れそうだからだ。
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