いろはにほへと
嫌な汗が出てきて、耳を塞ぎたい衝動に駆られたその時だった。
バン!!!!
私の手を繋いだまま。
空いている片手で、澤田が思い切り教室の戸を開けたのだ。
「うるさ…」
それまでざわざわしていた教室内が、シンとなる。
「ていうかさぁ」
顔だけ振り返った澤田の目は、私ではなく、騒がしかったキラキラ女子に向けられていた。
「杏里沙達って、そんな風な見方してたっけ?どーでもいいけど、その意見を私に迄押し付けないでくれる?私は誰かの指図もらわないと動けないようなヤワじゃないんだけど。今迄も自分のやりたいように動いてきたし、これからもそうするつもり。」
何度も言うが、澤田はキラキラ女子だ。
そして、女の私が言うのもなんだが、とても美人だ。
「この時期にそういう事して、逆に痛い目見るのは、杏里沙達だと思うけど?もっと賢い選択、した方が良いんじゃない?」
因みに、成績も良い。
群れたりはそういえば、あまりしていない。
けれど、発言力はある。
そんな澤田のニコッと笑った顔は、怖い。
「っな…」
ピシャン。
相手の返事を待たずに、澤田は戸を閉めて、ずんずんと進む。
「ー澤田さ…」
そして、中庭に来て、やっと、繋いでいた手を放した。