いろはにほへと
「ー中条さんは、腹立たないの?」


通り抜けていく風が、珍しく下ろしている澤田の髪を揺らし、私の前髪をどけた。


「腹立つ…?」


「あんな風に言われて、されて、怒りたくならないの?」


数日前に、澤田が家に来てくれた時に合った時と同じ。


桂馬と連絡を取るよう勧めた時と同じ目だった。


少し、責めているかのような。



「…こないだ家に行った時、私…学校は大丈夫そうって言っちゃったけど、皆中条さんの事知らなかっただけで、登校してきてるの見たら、何も言わずにはいられなかったんだと思う。中条さんは、そういう意味で、皆に悪い印象から知られちゃったんだよ。」


小さく息を落として、澤田は俯く。



「ーでも、皆さんが仰ってる事は、間違ってないと思うんです…」




むしろ、大正解だ。



「私は、トモハルとも、桂馬くんとも…澤田さんとも、本来なら、交わらない人種ですから…」



なのに、一丁前になって、傷付いている。

そんな権利も、持ち合わせていないのに。
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