いろはにほへと
姫子さんの家の近所には、きれいな川があった。


水が澄んでいるので、蛍が住まう。



小さい頃、姫子さんがよく連れて行ってくれたことを覚えている。





姫子さんが居なくなった今でも、夏休みの度に見に行っている。


ただ夜道になってしまうので、街灯の少ない田舎、一人だと心許ない。




そういう意味では、トモハルがついてきてくれるのはありがたい。





しかし。





私は屋敷を出て、隣を歩くトモハルを盗み見る。





深く被ったキャップ。




夜道なのに、サングラス。




挙句にマスク。





追加情報として、逃亡者。





そーっと視線を進行方向に戻し、思う。





隣人が一番危険な気がする。






「蛍かぁ、いいねぇ。見たことねーな、俺。」





私がまさかそんなことを思っていると微塵にも考えていないトモハルからは、どことなくうきうき感が漂っている。
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