いろはにほへと
熱帯夜の続く今夏。



とはいえ、今は涼しげな風が通る。




―『ひな、おいで。手を繋ごう。』




目印の電信柱に、初めて姫子さんとこの道を歩いた記憶が甦る。



幼い私は、光る虫が見れると聞き、勢い良く姫子さんを追い越したはいいものの、田んぼばかりの暗い道を歩くのがとても怖くて、途中で泣きべそをかいた。




後ろからゆっくりと歩いてきた姫子さんは、そんな私を見て、手を差し伸べてくれたのだった。






―楽しかったな。







「ひなの!」




「うわぁ?!」




想いが彷徨っていた所、トモハルが突然私の名前を呼んで、左手をとったものだから、変な声が出た。





「な、な、なんですかっ、これ。。。」





しっかりとトモハルの右手に握られた、私の左手を見る。




「何って、手繋いだの。」



「それはわかりますけど!」




首を傾げたトモハル。



「少し、怖いみたいだったから。これで、怖くない、ね?」




サングラスで、目は見えない。



マスクで口も見えない。




でも、きっと、笑ってる。

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