いろはにほへと

「…もう、次褒められたら、倒れそうです…」


容姿であまり褒められた経験のない私は、澤田のストレートな褒め殺しに、頬が熱を持つのを止められず、掌で隠しながら、目を逸らす。



刹那。





「ーーーー」





どっちが先だったのか、分からなかった。

耳から聴こえたのが先だったのか。

目から入ってきたのが先だったのか。


とにかく、ビルに貼り付けられた、大きなテレビの画面に、目が釘付けになった。


さっきまでは、確かにCMが流れていたと思うのに、今は音楽番組に切り替わっていて、右上にはテロップがLIVEと入っている。

そしてその下には、Luceの文字。


顔見知りのメンバーが映し出され、トモハルの閉じた目がアップになって、曲の始まりと同時にその瞳が開く。





スクランブル交差点を渡り切った所にあるビルの真下で。



私の心臓は、息を吹き返した。


今迄息の仕方を忘れていたみたいに。


全身に震えが走る程激しく揺さぶって。


それは、とても。


痛かった。

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