いろはにほへと
「ふぅ」
学校に到着すると、私は誰も居ない教室で、ひとり小さく息を吐いた。
電車というのは、何回乗っても慣れない。
あの人の多さ、破壊級だ。
できるなら自転車で通える近くの高校が良かったのだけど、どうしても女子高が良かったのだ。
地元の小中学校に通っていた頃、男の子という存在が恐怖でしかなかった。
皆ぶっきらぼうで、乱暴な話し方をするから、私の父とは全く異なっていて、恐かった。
姫子さんの屋敷に通うようになった理由のひとつでもある。
だから、仕方なくこうして電車に乗るのを我慢しながら通学しているのだ。
「黒板消しが、ないですね…」
私は、毎朝黒板を、黒板消しで一行一行綺麗にして、黒板から薄白さを完全に失くすのが好きだった。
自分で言ってても、地味な作業だと思う。
だから落ち着くのだ。
なのに、黒板消しが見当たらない。
どこかな、と教室中を見渡してみるが、やはり、無い。
「あ、ベランダですかね…」
ぶつぶつと独り言を呟きながら戸の鍵を開けてベランダを覗くと、案の定黒板消しが落ちていた。
きっと、誰かが掃除の時間に置き忘れてしまったのだろう。
私はその黒板消しを拾って軽く叩いて戻し、いつもの日課に取り掛かった。