いろはにほへと
「病院に行って、声が直ぐに戻ればいい。でも、そうじゃなかったら?ルーチェは、ウチの看板アーティストだ。受けた依頼を全て断るのか??」
損害は?
損失は?
ファンは離れないか?
売れてるのは今だ。
今が売り時なんだ。
それを逃したら、売れなくなる。
この業界はシビアなんだ。
ただでさえ、CDが売れない時代だっていうのに。
社長の口から溢れ出てくる言葉を拾い切ることはできない。
社長の言うことはわかる。
理解できる。
でも。
今。
俺は、歌えなくなって、むしろほっとしていた。
唄の中で、嘘は吐けない。
唄の中でだけは、本音を吐き出してる。
だけどそろそろ、苦しすぎんだろ。
純粋に唄を歌い続けるのは。
そこに、どうしても縮むことのない、理想と現実の狭間を見出してるっていうのに。