いろはにほへと



「遥?どこ行く?」

周囲の白熱する空気にシラけた俺が背を向けた所で、宗司が呼び止める。

「………」

答えようにも、声が出ないから、何も言えず、代わりに首だけ傾げて見せた。

「とにかく、ここにはいろよ。それで、飯田に病院に連れて行ってもらえ。さすがに今は出ていっていい時じゃない。」

珍しく真面目な顔して引き止める宗司に、仕方なく頷いた。


ー居ても、意味がない。

心の中では、そう呟いていた。

だってどう足掻いても声が出ない。

多分、出したくない。

原因も分かってる。

だから、病院に行ったって、無駄だ。


歌いたいって思えないんだから。

ああ。

このまま、全て取っ払われたなら、楽になるのに。


全部壊れてなくなってしまえば、いいのに。


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