いろはにほへと
それが、こんなに自分を追い込んでいるなんて。

そして、それに気付かなかった。

完全な、自己過信。


「那遥さん。とにかく、病院に行きましょう。」


関係者と社長との話し合いはまだ続いているが、途中で抜けてきた飯田が俺の傍に駆け寄って来た。

新しくルーチェのマネージャーになった飯田は、女で。
まこちゃんとみたいな信頼関係は、皆無。

それでも、やたら腕を絡み付けてきたりと、そうした馴れ馴れしさは抜群だ。

容姿はそこそこ。
ストレートの長い黒髪は、ひなののそれとは少し違って、柔らかそうではない。
念入りに櫛を入れて、ブローされている。


「ね?今車回してきますから。」


ーこんなオトナの女が、俺には合ってんだろうな。

頷くこともせず、見つめる俺の態度を了承と取ったのか、背中にそっと手を置いて、飯田は出て行った。


音楽に一直線だったけど、俺だって別に浮いた話が皆無だった訳ではなくて。
ひなのに恋愛を教えるって豪語した位だから、それなりに経験はある。

そんな自分は、汚れてるみたいで。

泥の付いた手で、触れたら、ひなのを汚してしまうようで。

それが怖いのに、それでも触れたい、なんて。

変態の域に達したんじゃないかと本気で落ち込む時もある。

相手は、子供で。

所詮、恋なんて愛じゃないから。

浮ついただけの、熱病の忘れ方は簡単だ。

考えないで、焦点を変えればいいだけ。

だけど、それ以外、焦点が合わなくなったら。
ピントの合わせ方が分からなくなったら。

もう、終わりかな、俺。



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