いろはにほへと
「那遥さん、車外にありますから。」

いつの間にか、目の前に戻って来ていた飯田が、俺の腕を引いて、外へ連れて行く。


「遥、お前…」


どこに行ってきたのか、向こうから歩いてきた孝祐が、すれ違い様に何か言いかけて、呑み込んだ。

俺は、なんだよ、と続きを促す事もせず、一瞥だけ送る。


「今から病院に行ってきますね。診療時間外ですが、連絡をして、待って頂いているので、急ぎます。」


飯田が急かせるように言うと、孝祐は、「気を付けて」とだけ言った。


孝祐とは、あの夜以来、ひなのに関しては一言も話していない。

まこちゃんが、マネージャーから降ろされて、言いたいことは沢山あるはずなのに、メンバーは俺にどの責任も取れとは言わなかったし、怒りもしなかった。

それだけ信頼関係が強いとも言えるけど。

それだから、この信頼を裏切ってはいけないと感じる。

なのに、身体が付いていかない。

心が千切れそうになる。


今回みたいな失態ー唄が歌えなくなる俺を、メンバーは誰も責めない。
だけど、俺はもう守れない。

巻き込むわけには、いかない。



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