いろはにほへと
「さっき、社長と話したんですけど、スポンサーも今回ばかりはカンカンみたいで、これから説明しにいくみたいです。だから、診断結果を直ぐに連絡するように言われていますから、よろしくお願いしますね。」


車の運転席に乗り込み、シートベルトを締めながら、飯田が話し出す。

俺は後部座席で、高い声が耳触りだと思いながら、窓の外に目を向けていた。


「やっとマスコミの疑いが晴れたばっかりだっていうのに、大変ですよね。事務所にも放送直後から電話がひっきりなしにかかってきていて、改めてルーチェの凄さを感じました。」

嫌味なんだか天然なんだか分からなくなるような話は、聞いてて面倒臭くなる。

なんとなく。

雨が降らないかな、と思った。


「私、いつでも準備できてますよ。」


突如、掛けられた言葉の意味が、分からなかった。

何が、と訊く声もなく、俺は窓から運転席に目を向ける。


「あのスキャンダル、本当だったんでしょう?」



ミラーの中、飯田が俺を見ていた。


「那遥さんが、慰めて欲しいなら、私、いつでも慰めます。」


走り出した車の中。


「私が相手なら、楽でしょう?」


豊橋社長が、どうして、まこちゃんを外して、彼女をルーチェに付けたのか、その理由を知った。




< 510 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop