いろはにほへと
出逢いは最悪。
撮影はとっくに済んでいてもおかしくなかったのに、まさかのルーチェ側からのダメ出しによって、いつ撮り始めるのかも分からない状況。
「また我が儘が出たよ。」
喜一ちゃんだけでなく、周囲のスタッフからも困惑の声が広がる。
ルーチェの認知度も評価も確かに高く、業界でどれだけ儲けてるのかもなんとなく分かる。但し、ルーチェのハルに関しては、余り良い評判は聞かない。
なんていうか、天才肌というのか。
ミュージシャンなんて、皆非現実的なロマンチストのナルシストだと俺は思う。
ちょっと格好良いジャケが撮れれば満足。
演技なんてしたことないから、イカしたPVが撮れたら、大満足。
的な。
ハルに関してはそうではなかった。
ハルは、自分の中で確立された世界を持っているというよりも、歌が好きで、敢えて自分の考えを入れた、というような。
上手く言えないけど、伝えたい世界観よりも歌が先に立つような。
そんな姿勢の持ち主で、普通の感覚を持つ、周囲の人間との間に常に温度差があった。
だから、一度嫌になってしまうと、簡単に仕事を放り投げてしまう。
そういう評判が流れていた。
それが、『我が儘』という言葉に繋がるわけだ。
「ご機嫌取りが大変だ。あのマネージャーもちゃんと躾けとけよ、なぁ?」
俺の相手役のモデルを降ろしちゃったのだから、喜一ちゃんがこうして怒るのは、尤もなんだけど。