いろはにほへと
それがまさか、こんな感情を抱くなんて。
「予定じゃなかったんだけどな…」
ぽつ、落ちた言葉に、喜一ちゃんがやっと反応を示す。
「何言ってんだ。スケジュール通りだ。」
御門違いだけど。
次の収録の流れを淡々と説明していく喜一ちゃんを横目に。
ー今迄仕事が一番だったのに。
あっさり優先順位を変えてしまった自分の価値観を不思議に思っていた。
彼女を守る為に、仕事への支障をきたす選択をする自分が。
女には困らない。
だけど、俺は困る。
どういう事かといえば、寄ってくる女は山程いるけど、付き合うと俺が面倒になるってこと。
求める分にはいいけど、求められるのは御免だ。
だったら要らない。
仕事の邪魔にしかならない存在は必要ない。
だから、すっぱ抜かれることもない。
尻尾は出さない。
仕事は手を抜かない。
それが、阿立桂馬だ。
いや…………だった。