いろはにほへと
誰かを引っ張って誘導する、なんて、ちょっと初めての体験だった。




「おぉ!おー」





歩きながらちらほらと見え出した蛍に、トモハルが歓声を上げる。




「しー!静かにしてください。蛍が逃げます。」





ベンチについて、座るように促せば、トモハルは蛍に釘付けになりながら、大人しく腰掛けた。




隣同士に座って、やっぱり手は繋いだまま。




―いつになったら放してくれるんだろう。




いつもは幻想的な、光の飛び交う光景にただひたすら、魅了される。



でも今回は。



隣に居る人が、気になって仕方ない。




無数の蛍が、トモハルの横顔を照らす。




トモハルの顔は。



整ってる顔立ち。



漫画や小説の中の人みたい。



ただ、長い前髪が隠してしまっているけど。




私は―。




トモハルから目を逸らして、仕方なく自分で揃えた前髪に右手で触れる。





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