いろはにほへと
越えて、その向こうで、さよならを
「いってきます」
靴を履いて、振り返ると、父と母が緊張した面持ちで、私を見ている。
「受験票、持った?ハンカチある?筆記用具忘れてない?」
「あります。大丈夫です。」
母は昨晩からこんな調子で、何度も何度も持ち物を確認してくる。
「ー雪、降るかもしれないってラジオで言っていたけれど、送らなくて本当に平気ですか?」
父も珍しくそわそわしている。
家に車はないので、送ってもらうと言っても、一緒に電車に乗るとか、タクシーに乗るとか、そういうことで。
「大丈夫です。もし、電車が駄目になりそうだったら、さっきお父さんが言っていたように、タクシーに乗りますから。」
二人を安心させるように言うと、私は今度こそ玄関のドアノブに手を掛けた。
「いってきます。」