いろはにほへと





「ーーーー」




試験会場に到着すると、門を通り過ぎた辺りで、待っていたかのように、雪がヒラリと舞った。

積もる程ではないだろうと思いわせる位の、弱い弱い、ひらひらり。

コートのポケットに入れたスマホがまた震えたけれど、見るのはやめにした。


「えぇー?去年の聴いてるの?」
「だって、ルーチェ、曲出さないんだもん。」


私の傍を過ぎて行く友人同士で来ているらしい受験生の会話を、追うように振り返って、後ろ姿を見て、立ち止まって、俯いて。


去年の自分は、この頃。

ルーチェの新曲をよく聴いていたなぁと思い出していたから、ドキッとした。

なんだか、遠い昔の事のようで。

トモハルのくれた【約束】を待っていたあの頃が。


ー集中、集中。


頭から考えていた事を振り払うように、首を一度だけ横に振り、歩き出す。

ルーチェは、あれから活動を再開しないまま。
明確な情報も、週刊誌で騒がれるのが関の山で、本人達も会社側も公にしていない。





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