いろはにほへと
試験を終えて、会場を出てみると。
「………、、、」
弱いのに降り続いている雪は、予想に反して、薄っすらとアスファルトの上を覆っていた。
働かせ過ぎて、熱を持っているような脳には、心地良い寒さ。
周囲を見てみると、皆傘を差している。
自分も折り畳み傘を持っているから、駅迄は歩ける。
ただ、電車が止まっていないといいなと思った。
踏み出した一歩。
水分を多く含んだ雪は、容易に靴の先端を濡らす。
革靴の色が濃くなり、私はそれをなんともなしに見つめ、そういえば、トモハルと冬は過ごしたことがないんだと漠然と気付いた。
来た時には、考えないようにしようと蓋をした事が、試験を終えて、緊張を吐き出した後では、己で作っていたバリケードが簡単に決壊してしまい、勢いよく流れ込んでくる。
飽きるほど繰り返し聴いた曲が、忘れられないのと同じように。
トモハルとの事は、私に馴染んでしまっている。
それはもう、仕方のない事だ。