いろはにほへと
でも、時間は経過した。
苦しかったけれど、次の日はやってくる。
それを繰り返していけば、必ず時間が流れて、慣れてくる。
トモハルが自分と居ないという現実に、慣れてくる。
トモハルと会えないということを、受け入れられる。
だから、思い出しても平気になってくる。
子供の時に見た、夜も眠れない程怖かった絵本が、今になってみると、そうでもないことに気付く。
それと同じで、私の子供染みたこの想いを、大人になって思い起こしたら、大したことないと気付く。
そういう時がやってくる。
ー雨。
ふと我に返ってみると、雪が雨に変わって、溶けている。
パタパタ、音を立てて、傘に当たって落ちる。
足元ばかりを見ていたから、門を出た所で、自分の前に、自分のじゃない足が2つ、こちらを向いて立ち止まっていることに気付いて、顔を上げた。
「お疲れ」
ビニル傘を差して、グレーのニットキャップを被って、伊達眼鏡をして、マスクをしている桂馬。
「な…んでここに…今日仕事の筈じゃ…」
驚いて、目をパチクリさせて言うと、桂馬の目尻に皺がよって、彼が笑ったのが分かった。
「驚かせたかったから。」