いろはにほへと



私は、桂馬のこのしっかり見えない笑顔が、中々好きで。

普段余り笑うことが少なく、意地悪ばかり言う桂馬だけれど、マスクをしている時は、どうしてか、よく笑っている率が高い。

隠れているから、もしかしたら気付かれていないと思っているのかもしれない。


「こんな目立つ所にいたら、大変です!」

おろおろする私を安心させようとしてか、いや、更に混乱させようとしてか、桂馬は私の手をぎゅっと握る。


「冷たいー早くあったかいもんでも飲もう。」


狙い通り、慌てふためく私を面白そうに横目で見つめつつ、桂馬はいつものように引っ張っていく。


桂馬が、私との関係を公開してから暫くの間、マスコミの取材は加熱していたけれど、事務所も桂馬もきちんとコメントを発表したことで、最近は幾らか鎮静化してきたと言える。

それに加えて、有名人は、一般人との接触が少ない場所をよく知っていて、桂馬と行く店は、どこも個室が多かったり、隠れ家的な所ばかりだった。




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