いろはにほへと

「奥の個室お願い。」

慣れた口調で桂馬が言うと、ポニーテールにしたデキる感じの女店員は直ぐに察したらしく。

「どうぞ、こちらへ。」

やはりこちらも慣れた所作で、案内した。

桂馬といると、こんな事は日常茶飯事だ。


「ここ、紅茶の種類が豊富だから、色々試してみると良いよ。」


ウォールナットの肘掛けに黒のレザーシートが向かい合わせにあって、テーブルはガラス。



上着を預かってもらって、お洒落な店内に落ち着かない私が恐る恐る腰掛けた所で、桂馬がメニューを見せてくれる。


「ありがとうございます…」


こんなに格好良い俳優さんだから、一緒に行動するとなれば、やはり自分もこういう場所に慣れなければならないと分かっていても、性に合わない。

そんな中、私が飲み物といえば、いつも甘くも苦くもないお茶系ばかり頼む事を知っている桂馬の優しさに触れて、すこし気持ちがほっこりする。


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