いろはにほへと



「少しは解放感、ある?」

頼んだ物が運ばれてくるまでの間。

桂馬がマスクを外して、訊ねるので、私は頷く。


「髪を切った時には、負けますけど。」



そう言って、少し笑うと、桂馬が驚いた顔をした。


「ーどうか、、しましたか?」

何かまずいことでも言ってしまっただろうかと、今の自分の発言を反芻してみるが、思い当たらない。


「…いや…」


ボソボソと呟く桂馬の声が聞き取れなくて、益々私は首を傾げる。


「…桂馬くん、もしかして具合悪いですか?寒い中立ってたから…顔が赤いような…」


言いながら、額に触れようと手を伸ばすが、桂馬は身を引いた。


「違うから。」


「すいません…」


嫌だっただろうかと、私は肩を落としてしゅんとなる。


「あーだから、違うんだって。」


慌てて言ってくる桂馬を見ると、困ったように頭を抱えながらこちらを見ている彼と目が合う。



< 554 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop