いろはにほへと
声が出るようになったのは、数日前。
行った書店でふと目に入った絵本がきっかけだった。
表紙の絵に、どうしてか惹きつけられて。
太陽の流した涙が海となって、闇と化した底には月が居るーそういう不思議な構図の絵だった。一般的に言えば、月は空にあるものだから。
ーどんな話なんだろう。
なんとなく気になって、パラパラ、めくって読んでみる。
内容は、太陽と月の、恋物語だった。
昔太陽と月は空と海に輝いていて。
昼は上にあって、夜は下にあった。
そして毎日青空の絨毯と、星空の絨毯を広げては、他愛もない事を話して過ごしていく内、オレンジに輝く髪を持ち、浅黒い肌の美しい太陽と、青白い肌に金髪の月は、恋に落ちる。しかし、お互いの間には、隔たりがあって、傍に行く事は叶わない。
そんな月を見兼ねた夜海の魚達は、自分達の力でどうにか月を太陽の所へと押し上げてあげられないだろうかと考えた。その作戦は大成功を収め、海から出された月は太陽のすぐ傍に辿り着く。
けれど、太陽は気付かない。
己の光があまりに眩くて、傍にいる月を見ることができない。
太陽は月を探し、月を想い、涙を流す。
しかし月は太陽をいつでも見守る事ができている。
それで、満足だった。
例えこのまま、自分の身が滅びるまで、愛しい人が気付かなくとも。
ずっと傍にいることができるから、それで幸せだった。