いろはにほへと
「ーーーーぁ…」
確認の為に、道の真ん中で突っ立って、言葉を出してみると、掠れて弱いけれど、やはり声が出た。
カーキのジャンパーのフードをすっぽり被って、マスクをしている俺は、暫く呆然とする。
そして、徐にポケットからスマホを取り出して、登録してある番号にかけた。
《……もしもし??…》
暫く電話もできなかったから、相手も訝しんでいるような声だ。
「こ…すけ…。俺…」
何かが引っかかってるような、喉がカラカラなような、変な状態で、上手く出ないけど。
《遥!??声!!!出るようになったのか!?》
「…らしい、な。」
孝祐の耳をつんざくような奇声が上がる。
「うっせ…」
曇った空と、自分の白い息を見上げながら、俺は、これから先も、また、あの歯車に乗るんだろうなと、諦めにも似た複雑な感情で、覚悟した。
それは悪い意味ではなくて。
良い意味でもない。