いろはにほへと
複雑な気持ちで、青柳さんの家に後で取りに行く約束をしてから、レジで清算した。
なんとなく居ついたトモハルは、人懐っこいけど、掴み所がない。
最初は気にならなかったが、近頃、一体彼は何者なんだろうという思いが強くなってきた。
早いもので、8月に入って久しい。
自分の帰る日も、近い。
夏の間だけでいいと言った彼は、私が居なくなったら、何処へいくんだろう。
落ち着かないこの気持ちは、何が原因なのだろう。
「えいっ」
腹いせに石ころを蹴飛ばすと、
「いてっ」
と前方で声がした。
「え、あ…!」
驚いて顔を上げると、帽子にサングラスにマスクという超怪しげな犯罪者…ではなく、トモハルが立っていた。
今の私の心理状況では、この人の登場はいつも以上に心臓に影響を来(きた)す。
「ひっでぇな、ひなのは。」
顔周辺の暑苦しいアイテムと打って変わって、首から下は半袖短パンという出で立ち。
「こんな明るい時間に出てきて、そんな格好してたら警察に間違いなく通報されますよ。うわ…」
至極真っ当な意見をして、横を通りすぎようとすると、手にしていた荷物を奪われる。
「だって、ひなの、重いかなって思って。俺手伝いにきたんだよー?」
マスクの裏側でもごもご言われても。
と思うものの、心臓のドキドキが治まらない。