いろはにほへと
「遥?大丈夫か。」


ひなのに触れた事なんか気付かない孝祐は、そんな俺の仕草を、体調が悪くなったと勘違いしたようだった。

軽く頷くと、孝祐は俺に何事もなかったかのように背を向けて、歩き出す。
ひなのの件に関しては、何も言わない。
俺の無言の理由はそこにある事を、知っているに違いないのに。


「ー女々しいな…」


誰にも聞こえないくらいの声で呟いて、許されるだろうかと心の中で自分に問うた。
今、自分が願っていることは、果たして、許されるだろうか、と。



「シケた顔してんなぁ。」


個室に、孝祐と座り、後からきた政宗も合流した所で、今回呼んでいた人物が、やってくる。


「まこちゃん。」
「あれ、宗司は?」

見回して、まこちゃんは直ぐにそう訊ね、それから俺の向かいに腰を下ろした。

「…なんか遅れるって。」
「宗司はいつも時間にルーズなんだよな。」

まこちゃんは、懐かしそうにそう言って、さらに笑った。

ルーチェ付きを外されてから、専ら新人に付かさているまこちゃんは、心なしか少し痩せた気がした。


「ハル、声出るようになったんだな。とりあえず、良かったな。」
「うん、まぁ…」
「で、話って何だよ。俺、ルーチェに極力会わないようにしろって言われてるから手短に頼むな。宗司がいないと進められない話?」

宗司には、時間に間に合わなければ、話し合いは進めるって伝えてあるから大丈夫だった。問題はない。

問題は、これから話す内容だ。



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