いろはにほへと
ゑそらごと
「本気で言ってるのか?」
重たい空気に包まれた、DYLKの社長室。
豊橋社長とルーチェのメンバーが対峙していた。
俺等の一歩前には、まこちゃんが立っている。
そして、緊急に呼ばれた飯田が、扉の横に困惑しきった表情で佇んでいた。
「こんなこと、冗談で言いません。」
俺がそう言うと、険しかった社長の眉間が更に深くなる。
「早川、お前のシナリオか。」
「いえ、彼には俺がー」
声を掛けた、と言い切る前に、ガタン!と大きな音をたてて、豊橋社長が椅子から立ち上がった。
「それが、お前らの、恩の返し方か?!」
ビリビリ、部屋中に響き渡る怒号。
でも、何とも思わなかったし、逆にどんどん冷静になっていく自分がいる。
冷えた感情が、内側を満たしていくようだった。
「社長には、お世話になりました。でも、充分お返ししたと思っています。」
「ふざけるな!お前のスキャンダルでどれ程損失が出たと思ってるんだ!?お前の声が出なくなったせいで、どれだけ売り上げが下がったのか分かってんのか?!」
豊橋社長の目は、充血していたけれど、それは、まこちゃんとは違う、怒りからくるものだ。
「それでやっと声が出たと思ったらこの仕打ちか???」
何も聞かされていなかった飯田の、啜り泣く声が癪に障った。