いろはにほへと

「お言葉を返すようですが、社長は俺達の唄を理解してくれていないと感じているんです。だから俺は…もう貴方の下では歌えないんです。」


俺がそう言うと、社長は机をバンと力任せに叩く。


「…那遥はいつになったら商売と夢の境界線がつくんだろうな?」


打って変わって、静かな声で、豊橋社長が俺を睨んだ。嘲笑うような含みもあったが、余裕はないようだった。

その後ろの窓からは、会社のライトアップされた庭が見える筈だが、今はブラインドが閉められている。


「夢は叶ったら、夢じゃなくなるんだ。そしてそれを売り飛ばしたなら、それはもう金の絡むことー商売に代わる。お前みたいに、自分の思い通りにいかないから辞めるなんていうやり方は筋が通らない。お前は夢を売り飛ばした身なんだよ。」


「ー夢は、売ったのかもしれませんけど…」


俺は、冷ややかな一瞥を社長に向けー


「自分は売ってません。」


感情を逆撫ですると理解した上で、意見を言った。


俺はお前に魂まで売り渡した訳じゃねぇんだよ、と。


「なんだと?!」

案の定社長は声を荒げる。
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