いろはにほへと
「こういう所に普通ときめくんじゃないのかなぁ」
何やらぶつぶつ言っているトモハルの横顔をちらり見ると。
「!」
先日の頬にキスされた記憶が甦った。
―うわ、うわわ。消えろ、消えろー!!
両手の拳で頭をがんがん叩く。
「…ひなの、、何やってんの?」
「あ、いえ、その、、、別に…」
トモハルの怪訝な声にはっとして、私は何事もなかったように歩く。
―平常心、平常心。。
自分に言い聞かせながら、どうしてトモハルがこんなに自分に構うのか考える。
放っておいてくれて構わないのに。
あ、そうか。
そもそも、彼は逃亡者なわけで。
何者かから逃げて、姫子さんの家に転がり込んだのだ。
その上、性格が明るい。
人懐っこい。
寂しがり。
もしも、屋敷に住んでいるのが、私じゃなくても、同じようにしたに違いない。