いろはにほへと

「俺達の唄を聴いてくれる人たちに、これ以上嘘吐きたくないんです。このままの俺達で、ぶつかっていきたいんです。」


俺が最後にそう言うと、社長は吐き棄てるように呟く。



「そんなの出来るわけがない。それこそ、絵空事だ。」


虚ろな目だった。



「いいか?お前達の唄が売れるのは、ただ単に歌が良いからってだけじゃない。ルックスも、与える印象も、経歴も、総合的に見て、商品価値があるから売れるんだ。若い女は恋愛対象として見ているし、反対に息子みたいに思ってる年代も居る。実際には有りもしない、届かない存在だから、客はそれを偶像化して追い掛ける。それが崩れたら、てっぺんにいたって、次の日には地に堕ちる。」


スキャンダルは、まさにそれだったと言いたいのだろう。


「夢を売ってるんだ。その夢は、所詮夢でしかない。」


そしてー、と豊橋社長は続ける。


「夢は、いつかは醒めるもんだ。」




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