いろはにほへと
少しの沈黙。
そして。
「どうせー」
俺は、かつて俺と一緒に夢を見てくれていたはずの人と、正面から顔を合わせた。
取り繕えない表情をしていると思う。
だけど。
「どうせ、醒める夢なら……」
今夜、ここで。
「醒めてしまうんだったらー」
あの頃より、幾らか白髪が増えた、でも、あの頃とは違う、もう輝きのない瞳を持つ、親代わりのような人に。
「目を覚ましてからの世界も、好きになってもらいたい。」
決裂を申し込む。
もう、一緒に夢は見れないから。
だから。
「社長の言う、絵空事を、本当にしてみせます。」
そう言い切って、頭を下げた。
「今まで、ありがとうございました。お世話になりました。」
寒いー
寒くて、誰もが寂しいと、思うような。
そんな、冬の、夜の出来事だった。