いろはにほへと
ふー、とひとつ息を吐いてから。
「ー先行ってて。」
俺がそう言うと、宗司が軽く頷き、歩き出す。
「大丈夫か?」
他3人が進んだのに、立ち止まったままだったまこちゃんが、小声で訊ねてきて、俺は平気だと答える。
「直ぐ行くから。」
「分かった。車で待ってる。」
短いやり取りの後、まこちゃんが漸く歩き出し、その背中が数メートル先になった辺りで、俺は振り返った。
まこちゃんと同じくらい離れている、正反対の場所で、飯田はそんな俺を見つめ、立ち尽くしていた。
沈黙が流れー
「……私が…。あんなことしたからですか…?」
最初に口を開いたのは、飯田の方だった。
いつもびしっとスーツを着こなし、高いヒールの靴を履き、全身から自信が満ち溢れている姿は、ない。
「ーこの件に飯田は関係ない。」
言いながらも、病院の駐車場での出来事と、その時の写真が掲載された記事が脳裏に浮かぶ。
社長と飯田はグルだった。
ルーチェのハルが高校生を本気で好きになったなんて、噂が立たぬよう。
立ったとしても、間違いだとされるように、世間の記憶を上書きすることで、薄れさせようとした。
そして、それはー桂馬の介入もあってのことだけれどー皮肉にも成功した。