いろはにほへと
阿立桂馬とひなのは同い年。
結婚云々言われる歳じゃない。
ルックスも売れる理由の一つではあるが、阿立桂馬の演技には定評があった。
だから、一時報道は加熱したものの、世間はそれを受け入れた。
結局、PVの中でも、現実でも、ひなのは桂馬にとられる形になった。
「じゃ、どうして教えてくれなかったんですか…っ!?」
こんな時になっても、飯田の目の奥には、非難めいた焔が見える。
会社の廊下のど真ん中、飯田は俺に詰め寄った。
「どうして私じゃいけないんですかっ!?」
反射的に、俺は彼女と距離を取ろうと引き下がる。
飯田はそれも不満らしく、眉を顰めている。
こっちとしては、あの夜の二の舞は、間違っても御免だ。