いろはにほへと
「…飯田…、ルーチェの唄で何が一番好き?」
「え…?」
ひなのよりずっと年上の、俺と同じ位の飯田は、唐突な質問に、化粧の取れかかった目を瞬かせる。
「…っ…、irohaが好きです、、、…今迄のルーチェと違って、臨場感があるっていうか…リアルな感情な気がしました…」
訝し気に俺を見ながらも、飯田はそう答えた。
「ーそう…飯田は、マネージャーとしては、有能だと思うよ。」
ふ、と息を吐くと同時に視線を床に落として、俺は呟く。
「じゃ、なんでっ…?」
至近距離にいる飯田がまた詰め寄ってくるが、今度は避けずに耳元で囁いた。
「irohaは『彼女』を想って書いた曲だ。」
「!?」
サッと、身を引いたのは、飯田の方だった。
赤かった頬が、更に紅潮している。
「飯田が駄目と言うより、俺が彼女じゃなきゃ駄目なんだ。彼女なしじゃ歌えないし、曲も書けない。」
見つめ合う目と目を、逸らしたのも、飯田が先だった。
俯いて、肩を震わせている。
「もう一度言うけど。飯田は、マネージャーとしては、有能だよ。俺の事を好きでもない癖に、会社の為に身売りするなんてさ。でもそれは、会社の為で、ルーチェの為じゃない。」